6月28日(金)には本展作家チョイ・カファイ在廊のもとソフトオープニングを、6月30日(日)にはアーティストトークを実施いたします。
周縁に追いやられたアジアのシャーマン文化には、植民地支配に対する、メインストリームに対する、同一化に対する、抵抗としての形を成す。こう語るのは、シンガポール出身で現在ベルリンで活動するマルチメディアアーティストであり「超自然的ダンス求道者」のチョイ・カファイです。チョイは、2018年から18ヶ月かけて、中央アジアから東南アジアを旅し、のちに映像、ダンス、インスタレーションとして展開する《コスミックワンダー》という一連のプロジェクトのために、その土地のシャーマン50人以上を取材しました。その一つが、シベリアを中心にロシア各地、モンゴル、中国東北部、中央アジアに遊牧し、国境を越えて疎外に追いやられてきたブリヤートの民です。
ブリヤードは、元々は北東アジア地域を流浪したモンゴル語系の集団です。20世紀初頭、ロシア革命による混乱を避けた一部が、国境を超えて外モンゴル(現在のモンゴル国)に亡命を図りますが、1930年代後半にはスターリン粛清により、反革命・日本のスパイという理由で処されてしまいます。戦後、生き残ったモンゴルのブリヤードたちは、モンゴル国における少数民族と見なされ、一方で、ロシア側に残ったブリヤードの民は、ソ連の下でモンゴル人とは異なる少数民族として制度に組み込まれ、モンゴル・ブリヤードを下級扱いするようになります。またソ連・中国の共産主義下においてシャーマニズムは弾圧の対象でした。時代と国境を超えて各地で弾圧されきた悲しみと、20世紀を通して粉砕されてきた帰属意識を再構築するために、国家を持たぬディアスポラ(離散民族)であるブリヤードの民の間で、「澄み切った青空」を信仰するシャーマニズムが増殖するようになりました。
アサクサでのチョイ・カファイの個展『悲しき霊魂を求めて』は、ブリヤートのシャーマン・コミュニティに着想を得たマルチメディア・インスタレーションによって構成されます。来場者は、「ブルースカイアカデミー」という架空のシャーマン学院で学ぶカファイに招き入れられつつ、学院の関係者やブリヤートのシャーマンへのインタビューから、シベリアのシャーマニズムを習得していき、VR作品《Constellation of the Flesh》において、シベリアのシャーマンによるトランスダンスとサイバー空間が相乗する超自然的世界をヘッドセットを通して体験することになります。シャーマンは、変性意識、つまりトランス状態に入り、超越的な存在と繋がり、超人間存在や祖先の霊魂を自らの身体に召喚します。チョイ・カファイは、デジタルテクノロジーの力を駆使し、散逸したその土地の記憶と物語を繋ぎ合わせ、過去と未来、実在と虚構を融合させたハイブリッドな新しい身体に息を吹き込みます。
本展ではインターネット文化がたびたび顔を覗かせますが、想像上の共同体が生まれるこの文化圏において、非科学的で非合理的とされてきた古い信仰体系を復権させる可能性も示唆されます。近代が猛進/盲信した科学や国民国家の概念では捉えきれない信仰は、不可視の存在、超自然的な存在を許容するデジタル空間で、密かに息を吹き返しているのかもしれません。辺境で生き延びてきた現代のブリヤートのシャーマン・コミュニティの脱国家的な営みは、過去の魂を呼び覚すだけでなく、未来予想図とも言えるのです。
コスミックワンダーとは
コスミックワンダー(CosmicWander)は、アジアのシャーマニック・ダンス文化を探求するチョイ・カファイによる現在進行中のプロジェクトです。チョイは、2018年から、シベリア、台湾、ベトナム、シンガポール、インドネシアで50人以上の霊媒に会うため、アジアを横断する1年半の旅に出ました。この過程で、超自然的なダンス体験を求め、環境、技術、政治というより広域的な変動と交錯しながらも、アジアにおいて現代まで浸透してきたただならぬシャーマンの儀式や民俗伝統を映像におさめます。人間の意識が変容するトランス体験を持ち帰ったチョイは、こうした特殊な経験を舞台作品へと昇華させ、別の知識のあり方、生き方、そして私たち自身の認知を超えた現実の可能性について問いかけます。 コスミックワンダープロジェクトでは、一連のパフォーマンス、インスタレーション、ヴァーチャル・ポータルへと発展し、ダンス、トランス、信念体系に関するオルタナティブで消滅しつつある人類文化に光を当てることが目指されています。
コスミックワンダーは、 tanzhaus nrw Dusseldorf, Taipei Performing Arts Center, Singapore Art Museum, National Arts Council, Singapore, Slovak Arts Council, Kunststiftung NRW Germany, Moving Digits/ MIREVI Lab Dussendolf, Nationales Performance Netz/ Joint Adventuresの支援を得て制作されました。
www.ka5.digital/projects/cosmic-wander
チョイ・カファイ (1979年生まれ) は、シンガポール出身で現在はベルリンを拠点に活動するマルチメディアアーティストであり、自らを「超自然的ダンス求道者」と名乗る。フィールドリサーチ、疑似科学実験、ドキュメンタリー・パフォーマンスを通して、最新のデジタルテクノロジーと土着の物語を流用し、人間の未来の身体を想像する。ビジュアルアート、ダンス、演劇の領域を横断する多くの作品を創作。主なプロジェクトに、アジアの5カ国13都市を訪れ、コンテンポラリーダンスのつくり手たちにインタビューを行った「ソフトマシーン」(2012-2016)、土方巽の霊を呼び出してもらいインタビューする「存在の耐えられない暗黒(UnBearable Darkness )」(2018-2020)、アジアのシャーマンの身体と精神世界を探求する「コスミックワンダー」シリーズ(2019-2024)など。サドラーズウェルズ劇場(ロンドン)、ImPulsTanzフェスティバル(ウィーン)、京都エクスペリメントなど、パフォーミングアーツの分野で活躍しつつ、近年は、シンガポール国立美術館やベルリンのKINDLでの個展の他、シドニービエンナーレ、ブンデスクンストハレでのグループ展など、ビジュアルアーツの分野へ活動の幅を広げている。 2004年、シンガポールのラサール芸術大学卒業後、2011年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートのデザインインタラクション分野で修士号を取得。2010年には、シンガポールヤングアーティスト賞を受賞。
周縁に追いやられたアジアのシャーマン文化には、植民地支配に対する、メインストリームに対する、同一化に対する、抵抗としての形を成す。こう語るのは、シンガポール出身で現在ベルリンで活動するマルチメディアアーティストであり「超自然的ダンス求道者」のチョイ・カファイです。チョイは、2018年から18ヶ月かけて、中央アジアから東南アジアを旅し、のちに映像、ダンス、インスタレーションとして展開する《コスミックワンダー》という一連のプロジェクトのために、その土地のシャーマン50人以上を取材しました。その一つが、シベリアを中心にロシア各地、モンゴル、中国東北部、中央アジアに遊牧し、国境を越えて疎外に追いやられてきたブリヤートの民です。
ブリヤードは、元々は北東アジア地域を流浪したモンゴル語系の集団です。20世紀初頭、ロシア革命による混乱を避けた一部が、国境を超えて外モンゴル(現在のモンゴル国)に亡命を図りますが、1930年代後半にはスターリン粛清により、反革命・日本のスパイという理由で処されてしまいます。戦後、生き残ったモンゴルのブリヤードたちは、モンゴル国における少数民族と見なされ、一方で、ロシア側に残ったブリヤードの民は、ソ連の下でモンゴル人とは異なる少数民族として制度に組み込まれ、モンゴル・ブリヤードを下級扱いするようになります。またソ連・中国の共産主義下においてシャーマニズムは弾圧の対象でした。時代と国境を超えて各地で弾圧されきた悲しみと、20世紀を通して粉砕されてきた帰属意識を再構築するために、国家を持たぬディアスポラ(離散民族)であるブリヤードの民の間で、「澄み切った青空」を信仰するシャーマニズムが増殖するようになりました。
アサクサでのチョイ・カファイの個展『悲しき霊魂を求めて』は、ブリヤートのシャーマン・コミュニティに着想を得たマルチメディア・インスタレーションによって構成されます。来場者は、「ブルースカイアカデミー」という架空のシャーマン学院で学ぶカファイに招き入れられつつ、学院の関係者やブリヤートのシャーマンへのインタビューから、シベリアのシャーマニズムを習得していき、VR作品《Constellation of the Flesh》において、シベリアのシャーマンによるトランスダンスとサイバー空間が相乗する超自然的世界をヘッドセットを通して体験することになります。シャーマンは、変性意識、つまりトランス状態に入り、超越的な存在と繋がり、超人間存在や祖先の霊魂を自らの身体に召喚します。チョイ・カファイは、デジタルテクノロジーの力を駆使し、散逸したその土地の記憶と物語を繋ぎ合わせ、過去と未来、実在と虚構を融合させたハイブリッドな新しい身体に息を吹き込みます。
本展ではインターネット文化がたびたび顔を覗かせますが、想像上の共同体が生まれるこの文化圏において、非科学的で非合理的とされてきた古い信仰体系を復権させる可能性も示唆されます。近代が猛進/盲信した科学や国民国家の概念では捉えきれない信仰は、不可視の存在、超自然的な存在を許容するデジタル空間で、密かに息を吹き返しているのかもしれません。辺境で生き延びてきた現代のブリヤートのシャーマン・コミュニティの脱国家的な営みは、過去の魂を呼び覚すだけでなく、未来予想図とも言えるのです。
コスミックワンダーとは
コスミックワンダー(CosmicWander)は、アジアのシャーマニック・ダンス文化を探求するチョイ・カファイによる現在進行中のプロジェクトです。チョイは、2018年から、シベリア、台湾、ベトナム、シンガポール、インドネシアで50人以上の霊媒に会うため、アジアを横断する1年半の旅に出ました。この過程で、超自然的なダンス体験を求め、環境、技術、政治というより広域的な変動と交錯しながらも、アジアにおいて現代まで浸透してきたただならぬシャーマンの儀式や民俗伝統を映像におさめます。人間の意識が変容するトランス体験を持ち帰ったチョイは、こうした特殊な経験を舞台作品へと昇華させ、別の知識のあり方、生き方、そして私たち自身の認知を超えた現実の可能性について問いかけます。 コスミックワンダープロジェクトでは、一連のパフォーマンス、インスタレーション、ヴァーチャル・ポータルへと発展し、ダンス、トランス、信念体系に関するオルタナティブで消滅しつつある人類文化に光を当てることが目指されています。
コスミックワンダーは、 tanzhaus nrw Dusseldorf, Taipei Performing Arts Center, Singapore Art Museum, National Arts Council, Singapore, Slovak Arts Council, Kunststiftung NRW Germany, Moving Digits/ MIREVI Lab Dussendolf, Nationales Performance Netz/ Joint Adventuresの支援を得て制作されました。
www.ka5.digital/projects/cosmic-wander
チョイ・カファイ (1979年生まれ) は、シンガポール出身で現在はベルリンを拠点に活動するマルチメディアアーティストであり、自らを「超自然的ダンス求道者」と名乗る。フィールドリサーチ、疑似科学実験、ドキュメンタリー・パフォーマンスを通して、最新のデジタルテクノロジーと土着の物語を流用し、人間の未来の身体を想像する。ビジュアルアート、ダンス、演劇の領域を横断する多くの作品を創作。主なプロジェクトに、アジアの5カ国13都市を訪れ、コンテンポラリーダンスのつくり手たちにインタビューを行った「ソフトマシーン」(2012-2016)、土方巽の霊を呼び出してもらいインタビューする「存在の耐えられない暗黒(UnBearable Darkness )」(2018-2020)、アジアのシャーマンの身体と精神世界を探求する「コスミックワンダー」シリーズ(2019-2024)など。サドラーズウェルズ劇場(ロンドン)、ImPulsTanzフェスティバル(ウィーン)、京都エクスペリメントなど、パフォーミングアーツの分野で活躍しつつ、近年は、シンガポール国立美術館やベルリンのKINDLでの個展の他、シドニービエンナーレ、ブンデスクンストハレでのグループ展など、ビジュアルアーツの分野へ活動の幅を広げている。 2004年、シンガポールのラサール芸術大学卒業後、2011年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートのデザインインタラクション分野で修士号を取得。2010年には、シンガポールヤングアーティスト賞を受賞。
関連イベント
ソフト・オープニング
日 時:2024年6月28日(金)17:00-19:00
会 場:アサクサ(東京都台東区西浅草1-6-16)
本展作家のチョイ・カファイも在廊しております。ぜひお越しください。
アーティストトーク「コスミックワンダー、超自然的ダンス、未来の身体」
2018年から18ヶ月に渡る旅から生まれた「コスミックワンダー」シリーズについて、またチョイが初期から探求を続けてきた「未来の身体」について、現在取り組んでいるリサーチと作品を交えながら語ってもらいます。
日 時:2024年6月30日(日)15:00-16:30
会 場:アサクサ(東京都台東区西浅草1-6-16)
展覧会
チョイ・カファイ『悲しき霊魂を求めて』
2024年6月28日[金]〜7月15日[月]
13:00-19:00 *金土日月のみ開廊
会場:ASAKUSA | 台東区西浅草1-6-16
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
ソフト・オープニング
日 時:2024年6月28日(金)17:00-19:00
会 場:アサクサ(東京都台東区西浅草1-6-16)
本展作家のチョイ・カファイも在廊しております。ぜひお越しください。
アーティストトーク「コスミックワンダー、超自然的ダンス、未来の身体」
2018年から18ヶ月に渡る旅から生まれた「コスミックワンダー」シリーズについて、またチョイが初期から探求を続けてきた「未来の身体」について、現在取り組んでいるリサーチと作品を交えながら語ってもらいます。
日 時:2024年6月30日(日)15:00-16:30
会 場:アサクサ(東京都台東区西浅草1-6-16)
展覧会
チョイ・カファイ『悲しき霊魂を求めて』
2024年6月28日[金]〜7月15日[月]
13:00-19:00 *金土日月のみ開廊
会場:ASAKUSA | 台東区西浅草1-6-16
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
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