私は精神病患者のもとに生まれ育ち、14歳年上の同性愛者の兄2人に連れられ、13歳からナイトライフと深い関わりを持ってきました。 だから私はこの銀河のような3Dフィルムを作ったのです。 それは、私に安全を感じさせてくれた空間への比喩であり、自分が外部化された存在であることを教えてくれます。——作家談
アサクサは、ニューヨーク在住のアーティスト ジェイコルビ・サッターホワイト(Jacolby Satterwhite: 1986年サウス・カロライナ州コロンビア生まれ)の個展『イロモノボンデージ』を開催いたします。
母が精神病棟に残した何千ものドローイングと録音テープ、ゲイクラブで踊る自身の裸体やボンデージ姿の調教シーンなど、自らを取り巻く現実の断片を張り合わせた3Dアニメーションで知られるサッターホワイト。無差別な愛情に動かされた放蕩なポルノグラフィーは、決してたどり着けないユートピアへの郷愁をまといつつ、機械仕掛けのように終わりなく反復し続けます。人種、ジェンダー、精神状態など、あらゆるマジョリティーからの逸脱や外部性が、日常の言語を超えた幻視的なビジョンによって増幅する映像群——莫大な想像力を解き放ち、母子の関係を無意識の世界において繋ぎ止めるデジタルシュールレアリスムとなって、サッターホワイトのクイアな人生を航海します。
本展の中心となる新作3Dフィルム《アヴェニューB》(2018年)は、亡き母パトリシア・サッターホワイトが歌うゴスペルソングとともに、サッターホワイトの黒い裸体が吊り下げられる秘教的な儀式に始まります。やがてBGMが90年代トップチャートを思わせる選曲に変わると、ダンスを踊る人々も重力から解放されて浮遊するデジタルアバターとなり、クローンのように増幅し拡散していきます。「仮想世界に身を置くことは、政治的なジェスチャーだ」と語るように、アフロ未来主義の逃走を呼び起こすかのようなバーチャルリアリティ、不可能な角度で回り続けるカメラワーク、政治的な表象としての自らの身体と母子の関係が幾重にも折り重なっていきます。生命の誕生と消滅、労働や性愛における主従関係、人種や階級などを連想させる目まぐるしいイメージの過剰生産——。その個々の要素が、魔術的リアリズム、サイケデリック、アウトサイダー・アートの歴史的な言説と交わり、豊潤な関係を生み出しています。
合わせて展示されているのは、中世僧院における僧侶と稚児の関わりを記した鎌倉時代の絵巻、《稚児之草紙》(1321年、京都醍醐寺三宝院 蔵、展示は複製)です。この文献には、13〜14歳の少年が当時どのような手順を経て、僧侶との性交に順応していたのかが具体的に記述されています。
初の性交となる灌頂(かんじょう)の儀式が終わると、稚児は神仏の化身として扱われると同時に、僧侶への服従を要求される受動的な存在となります。こうした風習は、僧院のみならず公家、武家、歌舞伎界、江戸中期においてはさらに世俗化して陰間茶屋などで広まっていきます。サッターホワイト作品に呼応した本展が主題とするのは、少年期における逃れえない状況や制度への順応をめぐる考察です。そこにはまた、集団が個に及ぼすマクロ的視点——男色と有色人種を含意する「色物」(coloured)と、主従関係や絆の意味を持つ「ボンデージ」(bondage)の2つの意味——が相関し、歴史を通じて歪み隠匿された力の体系を示唆しています。
『イロモノボンデージ:ジェイコルビ・サッターホワイト x 男色』は、ミシェル・フーコーの講演録「批判とはなにか」(1978年)をもとに、現代アートによる知の権力への批判を公に差し出す上映祭「アサクサエンターテイメンツ」の一環としてキュレーションされています。本展は、アーツカウンシル東京、および朝日新聞文化財団の助成を受けています。
サッターホワイト作品の一部はこちらから視聴できます。
Vimeo | https://vimeo.com/user2947668
SoundCloud | Blessed Avenue by PAT, Patricia Satterwhite, Jacolby Jacolby Satterwhite, Nick Weiss, 2016
展覧会情報
タイトル: 『イロモノボンデージ』
作家名: ジェイコルビ・サッターホワイト x 男色
会期: 2018年9月1日(土)〜24日(月・祝)
会場 : アサクサ
住所: 東京都台東区西浅草1-6-16
開廊: 土・日・月・祝 12:00〜19:00
キュレーション: アサクサ
助成: アーツカウンシル東京、朝日新聞文化財団
ジェイコルビ・サッターホワイト 作家推薦:川上幸之介(倉敷芸術科学大学)
『イロモノボンデージ:ジェイコルビ・サッターホワイト x 男色』は、ミシェル・フーコーの講演録「批判とはなにか」(1978年)をもとに、現代アートによる知の権力への批判を公に差し出す上映祭「アサクサエンターテイメンツ」の一環としてキュレーションされています。本展は、アーツカウンシル東京、および朝日新聞文化財団の助成を受けています。
サッターホワイト作品の一部はこちらから視聴できます。
Vimeo | https://vimeo.com/user2947668
SoundCloud | Blessed Avenue by PAT, Patricia Satterwhite, Jacolby Jacolby Satterwhite, Nick Weiss, 2016
展覧会情報
タイトル: 『イロモノボンデージ』
作家名: ジェイコルビ・サッターホワイト x 男色
会期: 2018年9月1日(土)〜24日(月・祝)
会場 : アサクサ
住所: 東京都台東区西浅草1-6-16
開廊: 土・日・月・祝 12:00〜19:00
キュレーション: アサクサ
助成: アーツカウンシル東京、朝日新聞文化財団
ジェイコルビ・サッターホワイト 作家推薦:川上幸之介(倉敷芸術科学大学)
PEOPLE
Jacolby Satterwhite
RELATED PROJECT
(それほどまでには) 統治されないための芸術
アサクサエンターテイメンツ
キュレーション:アサクサ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、公益財団法人 朝日新聞文化財団
22 SEP - 24 SEP 2018