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ポーリン・ボードリ / レナーテ・ロレンツ

オープニングレセプション: 2017年9月10日(土) 18:00 - 20:00
キュレーション:アサクサ
協力:イザベル・アルフォンシ(ギャルリー マールセル・アリ、パリ)

21 NOV - 21 NOV 2024

アサクサは、ポーリン・ボードリ / レナーテ・ロレンツ による日本での初個展 『不透明性への権利』 を開催します。2007年の結成以来、自身が「クイア考古学」とよぶ方法論にもとづき、セクシャル・マイノリティーの歴史を写真、音楽スコア、映画や文学テクストから掘り起こし、社会的規範に抗してコード化してきた過去の再解釈を試みてきました。周縁化した状況において—苛烈に華やかに—生きた人々が衣装やプロップをもとに再演され、映像とその構成物による空間インスタレーションとなって、記憶を更新する現在の時間軸に接続しています。

本展の中心となる《Opaque》(2014年)は、市民プールの跡地を舞台に撮影されました。ある地下組織のメンバーを名乗る2人の人物が薄暗い廃墟に現れ、カーテンの背後に立って、自らの匿名性を強調しています。性的アイデンティティーが織り込まれたカーテン—軍事用のカモフラージュにみたてたピンクのシマウマ模様(注:ピンク・ゼブラは黒人と白人のレズビアンカップルを表す隠語) や、きらびやかに輝くスパンコールが、やわらかい皮膜のように、内と外を隔てる結界を表しています。そして、聴衆が誰一人いない静けさのなか青や赤の煙幕がたかれ、鑑賞者の視界をさえぎっています。

沈黙のあと、政治デモにおける声明文のように高らかに読み上げらるのは、ジャン・ジュネが1970年に記した《公然たる敵》です。ブラックパンサーやパレスチナ解放のために共闘し、カルチエ・ラタンや全学連にも呼応した詩人が書いたこのテクストには、愛と憎しみ、性と暴力、モラルと背徳とが分かちがたく交差し、見えない敵への苛立ちと渇望が語られています。自らの欲望を自らの声で公的に表明することは、プロテスト運動のもっとも重要な手段として考えられてきましたが、本作においてテキストの朗読は録音され、出演者の男女二人の口パクと身振りによる演技が続きます。この錯綜した言語実践のうちにナラティブの構造が組み替えられ、架空の敵は自他の境をこえた特権的な対象となって現れてます。
本展のタイトル『不透明性への権利』は、マルティニークの詩人 エドゥアール・グリッサンの言葉です。西洋社会が推し進めた思考の透明性が、一方において言明しがたい文化領域を排除する知の暴力を生んだ反省にたち、多様な立場の人々が理解されないままでいることができる権利を主張しました。このとき不透明性は、透明な情報の開示をもとめるメディア文化や、奇異のまなざしを前に自らの言葉を失う人々が、自らの多様な特異性のうちに結びつくことができるための、心遣いとして要求されています。ジュネの声明文における見えない敵は、この不透明さのなかに求められているのかもしれません。

本展は次のような疑問を投げかけます。敵を見定めえぬまま、共犯関係ばかりが拡大するときに、私たちはいまどのような壁の存在を思い描くことができるのでしょうか。個々人の関係性とその経験の多様性に分け入りながら、現実を単純化せずに、いかなる対立の構築が可能なのでしょうか。抵抗の対象には実体があるのでしょうか。敵に身体はあるのでしょうか。

本展は、マールセル・アリ・ギャラリー(パリ)の協力により実現しました。

出展作品《Opaque》(2014年)は、2015年のベルリナーレ(Forum Expanded) にて公開され、クンストハレ・ヴィエナ、クンストハレ・チューリッヒおよびノッティンガム・コンテンポラリーにて上映されています。出演は、ウェルナー・ヒルシュとジンジャー・ブルークス・タカハシ。
  • PEOPLE

Pauline Boudry / Renate Lorenz

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