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イム・フンスン、小熊英二、佐藤満夫&山岡強一、ジェームズ・T・ホング&イン・ジュ・チェン、プロキノ(日本プロレタリア映画同盟)

主催・キュレーション:アサクサ
共催:「山谷」 制作上映委員会

13 MAY - 28 MAY 2017

アサクサは、1929年から34年にかけて活動した映画制作者集団プロキノのアーカイブと、東アジアの政治史を考察するドキュメンタリー映画のスクリーニング展覧会『境界—プロキノに寄せて』を開催いたします。近現代の歴史的な視点が交錯する本展では、プロキノのニュース映画や機関紙のアーカイブに並んで、国土や国家における記憶の地下茎を探索し、歴史的な事実を刻印する4本の現代ドキュメンタリー映画を合わせて上映いたします。シネマティック・リアリズムの手法に則り、スクリーンを人々の迫害と抗議の場に変えるこれらの作品では、階級闘争や国家間の対立など近代政治の課題が、右左の対立構造を超えた今日のポストイデオロギー的状況に投影されています。英題の「Kino-Pravda (キノプラウダ)」は、20世紀初頭のディジーガ・ヴェトフによる先駆的なニュース映画シリーズの名称で、現実の断片を構築することで、肉眼では想像の及ばない真理を明らかにする「映画の深層」を意味しています。

本展の参照点となるのは、大正新興芸術運動と深い関わりをつ映画制作者集団プロキノ(日本プロレタリア映画同盟、1929-34年) による活動です。 反共主義が深まるなか、京都の社会運動家山本宜治が右翼活動家によって刺殺され、亡命地台湾で自殺した共産党書記長渡辺政之輔の悲報がこれに続きました。プロキノ京都支部が16ミリカメラで撮影した《山宣渡政労農葬》(1929年) は、この二人の指導者に向けられた追悼であり、官憲の厳しい監視のなか京都駅から山本邸へと続く葬列を記録しています。東京プロキノによる《第12回東京メーデー》(1931年) は、芝浦埋立地から始まるパレードが上野公園に向かうまでの様子をとどめており、プロキノが撮影した中では現存する唯一のメーデー映画です。富山県の大沢野村小作争議を記録した《土地》(1931年 監督:高周吉) や東京市電争議の《全線》(1932年 脚本・演出 古川良) では、再現映像や事後的な演出によってセミドキュメンタリーの形態をとり、マルクス主義の理念に基づいた階層の連帯を強調しています。

プロキノのアーカイブに並行して暗室で上映されるのは、近年に制作された4本のドキュメンタリー映画です。佐藤満夫、山岡強一による《山谷—やられたらやりかえせ》(1985年) は、労働者の町 山谷での日雇い労働者と、彼らを一元的に管理しようとする暴力団に対する激しい闘いを描きます。山谷の路上に斃れた佐藤監督の殺害シーンに始まる本作は、ドキュメンタリー映画における作者の不在に本質的な問いかけを残しつつ、日本近代化の中で生み出された差別・支配構造を暴き出だしています。

イム・フンスンによる《済州島の祈り人》(2012年) では、1948年の反共鎮圧から6年にわたって、軍や警察、右翼青年団が結託して行った島民虐殺事件(済州島四・三事件) に遡り、夫を失った主人公の沈黙に迫ります。近年のツーリズム開発や海軍基地の建設に揺らぐ島民の心情を描きつつ、組織的に生み出された国家の罪が、一家族の辿った歴史や集団的な記憶のなかに浮かび上がります。

台湾のアメリカの映画制作者デュオ ジェームズ・T・ホング&イン・ジュ・チェンによる《歴史の血痕》(2010年) は、太平洋戦争時に日本軍が開発・使用した細菌兵器に関する当時の保存資料、映像クリップ、生存者へのインタビューで構成され、ハルビンで行われた人体実験と今日に至る被害者の苦痛を描くことで、日本における歴史の修正主義に抗しています。膨大な証言をもとに知の脱神話化をすすめる歴史社会学者小熊英二は、福島原発事故の翌年に、20万人以上の人々を集めた反核デモを収録(《首相官邸の前で》2015年)。既存メディアに黙殺された大規模デモを、菅直人元首相を含む8名のインタビューと、インターネットに投稿された動画映像など参加者個々のレンズを通じて多角的に編集し、変革の新たな方法を模索する現代日本の政治運動のあり方を記述しています。

イデオロギーによって特徴づけられた20世紀が終わり、対立構造が支配するラディカルな政治の時代は終焉を迎えたと言われています。イメージの伝える虚構性に慣れた私たちは、現代のメディアに何を見ているのでしょうか。プロキノの岩崎昶は「すべての芸術はイデオロギーの容器である」と言います。目前を記録するドキュメンタリーという媒体にとって、イデオロギーとは何を意味するのでしょうか。映画はいかにして真実を構成するのでしょうか。イメージの再構築によって、これからの歴史観を作り変えることは可能でしょうか。

本展は、「山谷」制作・上映実行委員会と六花出版社の協力を受けています。

展覧会
『境界—プロキノに寄せて』
イム・フンスン、小熊英二、佐藤満夫&山岡強一、ジェームズ・T・ホング&イン・ジュ・チェン、プロキノ(日本プロレタリア映画同盟)
2017年5月13日[土]〜5月28日[日]
12:00-19:00 *金土日のみ開廊
会場:ASAKUSA | 台東区西浅草1-6-16
主催・キュレーション:アサクサ
共催:「山谷」 制作上映委員会

プロキノ 作家推薦:川上幸之介(倉敷芸術大学)
  • PEOPLE

Prokino (The Proletarian Film League of Japan)
Masato Sato
Kyoichi Yamaoka
IM Heung-soon
James T. Hong
Yin-Ju Chen
Eiji Oguma

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